公益社団法人 日本水環境学会
活動報告

活動報告

2009年3月 第43回 日本水環境学会年会(山口)

学生会員向け企画(ランチョンセミナー)報告
産官学協力委員会 委員長 伊藤光明

本セミナーは、昨年度の第42回年会からスタートした新しい企画であり、昨年同様「水環境ビジネスガイダンス~水環境の仕事に興味のある学生の皆さんへ~」をテーマに開催した。本稿では改めてこの企画の趣旨を説明した上で、今回の実施状況、学生に対するアンケート結果などについて報告する。

1. 企画の趣旨と経緯

将来の水環境を担うであろう日本水環境学会の学生会員は、水環境の仕事をどのように思っているのだろうか、魅力ある職業であると考えているのだろうか、企業のどんなことを知りたいのだろうか、もし学生たちが就職活動をする際に十分に企業の仕事内容について情報を得ることができていないのであれば、そのような場を提供したい、このような想いからこの企画は誕生した。従って、本セミナーは個別の企業の宣伝ではなく、学生が企業訪問を含む通常の就職活動では得ることの難しい貴重な情報(仕事の実態ややりがいなど)を第一線で活躍している若手技術者から生の声で聞くチャンスを設ける場とすることに主眼を置いている。

2. セミナーの実施状況

昨年12月に学会団体会員に対して本セミナーへの参加企業を募集したところ、4社が本企画の趣旨にご賛同してくださり、若手技術者である発表者の派遣とランチなどのセミナー運営の費用についてご負担してくださった。改めてこの場を借りてこれら4社に対して謝意を申し上げたい。
セミナーの開催案内は1月末から学会のホームページ、学会誌2および3月号会告に掲載し、年会では、受付で学生会員に講演集を配布する際に併せて本企画のプログラムも配布することによって周知を行った。開催日時は、昨年同様の年会2日目(3月17日)のポスターセッションが始まる前の45分間とし、学生たちが気軽に参加しやすいようにランチョンセミナー方式で実施した。昨年は初めての企画であったことから、PR不足によりセミナー開催当日の朝の時点では参加申込者が少なく、開会直前に会場付近で参加者を募ることとなったが、今回は学会事務局、年会実行委員のご尽力もあり、定員100名のところ当日の朝には既に約80名の申し込みがあり、セミナー直前には会場前の広場に参加者が集まるほどの盛況ぶりであった。
セミナーは、いであ(株) 田畑彰久氏の司会進行により、昼食をとりながらリラックスした雰囲気で始まった。各発表者とその発表概要については次の章で紹介する。

3. 各発表者およびその発表概要について

(1) (株) 東京設計事務所 中園隼人氏

トップバッターとして登壇した中園氏は、上下水道のコンサルタントとして、まずコンサルタントとは何かについて説明され、次に公共事業における事業の計画から完成までの流れの中で、コンサルがどの部分に携わるのかについて具体的な国内外の業務事例を挙げながらわかりやすく説明された。また、中園氏は学生時代には特に海外業務に興味を持っていたとのことであったが、入社後に国内業務も担当し、国内業務も想像していた以上に面白くやりがいがあるということを話された。最後に、コンサルは事業の計画から工事の実施までのほぼ全工程に携われることと、自分の仕事が国益と国際益に繋がることから非常にやりがいを感じていることを強調された。今回のアンケート結果の中で、わかりにくいコンサル業務の具体的な内容が良くわかったとの感想が複数あり、学生にとっては有用な情報であったことが伺えた。

(2) 花王 (株) 山根雅之氏

山根氏は大企業の研究開発部門に所属する第一線の研究者としての立場から、民間企業における研究開発部門の概要について説明された。山根氏の学生時代の専門は地球科学であり、これは現在の担当業務である新規原料・製品の安全性評価、環境適合素材の開発と直接的な関連はないが、それ故に幅広い視点で地球環境を考えることができ、また学生時代に培った分析化学や論文作成スキルなどは現在の業務に活かされているので、就職先を選ぶ際に学生時代の専門についてあまりこだわることはないとの貴重なアドバイスをされた。仕事へのやりがいについては、製品の安全性について責任ある立場で仕事ができることや、高い環境安全性を持つ製品・原料の開発の最前線に立つことができることを挙げられ、その反面、大きな責任と目に見える成果を出さなくていけないことが辛いと感じることもあるとのことであった。また、最後に自分が開発に携わった製品が世の中に出たり、開発時に得た有用な知見を論文や学会で発表できたり、研究開発を通じて仲間が増えることが仕事の楽しみであると締めくくられた。

(3) メタウォーター (株) 井上大輔氏

井上氏は、まずメタウォーター(株)が昨年4月に電気設備のトップメーカーである富士電機水環境システムズ(株)と機械設備のトップメーカーである(株)NGK水環境システムズが合併してできた新会社であることを説明し、この会社の主力製品と市場戦略について短期・中長期的な視点でわかりやく解説された。その後、総合水環境エンジニアリング会社としての業務全体の流れについて説明された上で、事業開発本部の中の海外グループに所属し、1年の半分以上を海外で活動している井上氏が現在担当している海外業務の具体的な内容について紹介された。最後に仕事のやりがいについて、顧客からの感謝のことば、貴重な資源である水環境への貢献、自身のスキルアップと成長、人との出会いを挙げられた。

(4) (株) 明電舎 宮本新也氏

宮本氏は、最初に(株)明電舎の事業概要、特に環境事業の概要について説明された。宮本氏は現在、上下水道に関連した水処理技術の研究開発を担当しているが、大学では電気工学科を卒業しており、水処理技術に関する知識は入社してから勉強したとのことであった。従って、学生時代の専門と現在の担当業務は直接関連がないものの、その結果として現在は水処理と電気の両方の知識を仕事に活かせることができているとのことであった。仕事へのやりがいとしては、新しい技術に携われること、世界の飲料水不足を解決する手段としての可能性に関わっていることを挙げられ、仕事の楽しさには、浄水膜ろ過装置を導入した顧客から、住民の評判が非常にいいと喜ばれたことを挙げられた。

今回の発表者は経験年数2~7年と若く、各発表からそれぞれが仕事に対して希望と情熱に満ち溢れて日々業務に携わっている状況がひしひしと感じ取れ、学生たちもそれに呼応するように身近な先輩の生の声を将来の自分のイメージと重ね合わせながら熱心に聞き入っている様子が伺われた。
各氏約10分弱の発表の後、質疑応答へと移った。最初の質問は「就職する前に学生時代にやっておいた方がよいことは?」というもので、学生にとっては通常の会社訪問などでは聞きにくいであろう内容であった。各氏の回答は、学生はまとまった時間がとれるので、今のうちにそのような時間を有意義に利用し、楽しんでおく、何でもよいので何か1つ他人には負けないというものを身につけておく、何事にも自分で良く考えて積極的に取り組めば必ず結果はプラスになるので、このような思考を身につけておくなどであり、何れの回答も学生にとっては貴重なアドバイスになったであろう。次の質問は、「入社後にも学生時代の専門と同様の研究や業務に携われる人は多いのか?」というものであり、学生諸君の最も気になるであろう内容であった。既に多くの発表者がプレゼンの中でもふれていたが、各氏の回答はほぼ同様で、企業には多種多様な分野の職員がいることから、千差万別であり、多いとも少ないとも言えないとのことであった。また「仕事でのストレス解消は?」との問いに対しては、休日に家族とゆっくり過ごすことと回答された方が多く、また好きな音楽を聴くなどの回答もあった。その他、「会社に入ってから博士号を取得するチャンスはあるか?」といった質問もあり、これについての回答は各社それぞれに制度があり、チャンスはあるがその人数は会社や部門の違いによって差が大きく、総じて多くはないとのことであった。

4. アンケート結果について

セミナーに参加した学生の満足度と意見を把握し、今後の企画をより一層学生にとって有意義なものとするために、アンケート調査を実施した。参加者の約9割に該当する70名から回答があり、集計結果は以下のとおりである。

  • 参加した学生の所属は62%が大学院前期課程、25%が学部であり、この2つで全体の85%以上を占めていた。また、12%が大学院後期課程、1%が高専であった。
  • 参加の動機は61%の学生が水環境関連の仕事に従事したい、あるいは興味があるからと回答しており、27%は就職活動の参考にしたいとの回答であった。無料のランチだけを目当てに参加したのは極少数であった。
  • 将来の希望職種については、水環境関連のコンサルタントおよび同プラントエンジニアリングがそれぞれ18%ずつで、続いて大学・公的機関の研究員が17%、公務員が14%であり、水環境関連の装置・分析機器製造業、同土木建設業はそれぞれ10%ずつであった。
  • 企業の興味ある部門については、研究開発が約45%、技術・設計部門が約34%であり、この2つの部門で約80%を占めており、営業、建設・工事部門、総務企画部門はそれぞれ5%程度と少数であった。
  • 本セミナーそのものについて、学生の83%が参考になった、16%が期待したほどでなかったと回答し、参考にならなかったと回答したのはわずかに1%程度であった。

最後に参考になったこと、不満な点、その他自由に意見や要望などについて記入してもらったところ、参考になったこととしては、水環境分野に関連する企業の具体的な業務内容が聞けたこと、仕事のやりがい、楽しさを聞けたこと、学生時代の専門分野が必ずしも就職後の担当業務とは関係がないことがわかったことなどが多数の学生から挙げられていた。一方、不満だった点については、発表の時間が短かったこと、午前のセッション終了からセミナー開始時間までにスケジュールの余裕がなかったこと、発表者の声が聞き取りにくかったこと、より具体的な話を聞けなかったこと、ランチの質が低く量が少なかったこと、参加企業が少なかったことなどについて複数の回答があった。これらの不満点は、会場の設備、プログラムなどについて産官学協力委員会と年会実行委員会で十分に協議することによって比較的容易に解決できると考えられ、ランチの質や量についても今回は予算には十分に余裕があったことから今後改善していきたいと考える。また、要望としては、夜にビールを飲みながら開催してほしいとか、本セミナーを就職活動の場としてほしいなどがあったが、これらについては今後検討していきたいと考える。

5. 総括

昨年と本アンケート結果から、この企画は着実に日本水環境学会の学生会員に浸透し、彼らにとって年会の1つの有意義な催しとして好意的に受け止められていると考えられる。また、学生は通常の就職活動では必ずしも彼らが知りたいと思っている企業の十分な情報を得ているわけではないということを感じた。今後、少子高齢化が一層進む中、多くの産業で人材不足や技術・知識の次世代への継承が課題となっており、水環境関連の民間企業においても若い有能な人材の確保は大きな課題である。今回発表していただいたような若手の技術者が仕事に対してのやりがいや楽しさを伝えることによって次世代の水環境を担う学生諸君に少しでも水環境関連の仕事に興味を持ってもらえればこの企画は価値のあるものと評価できるであろう。今回の実施状況とアンケート結果を参考に、より学生にとって有意義な企画となるよう検討を行い、来年以降もこの企画を継続していく予定である。

会場の風景
写真1 会場の風景
参加学生からの質問の様子
写真2 参加学生からの質問の様子
TOP