(公社)日本水環境学会

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日本水環境学会とは

第61回水環境懇話会 議事録

松延 紀至氏
株式会社HANERU葛尾 代表取締役社長

鹿島田 浩二氏
ピュアサーモンジャパン株式会社 シニアプロジェクトエンジニア

第61回水環境懇話会では、株式会社HANERU葛尾の松延紀至氏、ピュアサーモンジャパン株式会社の鹿島田浩二氏をお招きし、陸上養殖ビジネスの現状と今後の展望について紹介いただいた。その後の質疑応答では参加者との活発な意見交換が行われた。

1. 経歴紹介

松延 紀至 氏
 1998年に株式会社荏原製作所に入社後、水道分野の設計や経営企画の業務に従事された。2011年の分社化に伴う水ing株式会社への転籍後は、事業型案件を担当するプロジェクト営業を経て、2012年に設立された株式会社水みらい広島に事業戦略部長として立ち上げに携わられた。2020年の株式会社日水コンへの入社を経て、2022年に株式会社HANERU葛尾を設立し、バナメイエビの陸上養殖事業に従事されている。

鹿島田 浩二 氏
 1996年に株式会社荏原製作所に入社後、国内水道分野の設計業務に従事された。2011年の分社化に伴う水ing株式会社に転籍後は、国内業務に加え、海外の浄水設備に関する業務に従事された。実務の傍ら東京理科大学大学院経営学研究科技術系専攻を2018年に修了された。2024年にピュアサーモンジャパン株式会社に入社され、アトランティックサーモンの陸上養殖事業に従事されている。

2. 講演内容

2.1 松延 紀至 氏/葛尾村でのバナメイエビ陸上養殖と水インフラ管理

2.1.1 HANERU葛尾/会社概要

  • 設立日   :2022年1月31日
  • 本社所在地 :福島県双葉郡葛尾村
  • 従業員数  :9名(全員が葛尾村に移住)
  • 葛尾村は福島第一原発の事故の影響で一時全村民が村外へ避難した経緯があり、現在浜通り地域と呼ばれる周辺地域一体で復興を目指している。

2.1.2 陸上養殖事業へ取り組むまでの経緯

  • 日本の上下水道事業が抱える「財政難」「施設老朽化」「人材不足」という課題の中で最も重要である人材不足・技術継承を解決する方法として、地方自治体で上下水道事業と親和性のある新産業を創出し、その産業の従業員が上下水道事業の技術者も兼ねることで持続的な上下水道を目指すという企画を立案した。その新産業の候補の一つが「陸上養殖」であった。
  • 上下水道事業体へのコンセッションの提案では、本業以外の地域経済活性化の提案は評価されなかったため、新産業創出に協力してくれる自治体に新産業への投資を条件に上下水道の維持管理を発注してもらう営業スタイルをとった。
  • 「水事業」に加え、陸上養殖による「食事業」、太陽光発電等を用いた「エネルギー事業」、施設を防災拠点とする「防災機能」を組み合わせた四位一体地方創生を企画した。
  • 出荷までの期間が3~4か月と比較的短期間である点、国内消費の9割を輸入に頼っており食料自給率向上への貢献ができる点等を考慮してバナメイエビを選定した。
  • 福島県庁の方からの紹介で葛尾村を訪問した際に、復興の途上であることを目の当たりにし、福島県の新たな名産を創出することで復興に寄与することを決意し葛尾村での事業を開始した。

2.1.3 事業の概要

  • 葛尾村の水でバナメイエビの養殖が可能であることを確認し、水処理方法の検討を経て、現在は技術の確立に向けて試験養殖を実施中である。
  • 養殖用の人工海水は外部へ排出しない完全閉鎖循環という環境に優しい養殖であることを特徴とする。
  • 水処理フローとしては、循環系として飼育槽から出た残餌や糞を固液分離後、好気性硝化脱窒槽にて脱窒後、飼育槽へ返送している。
  • 循環を続けて色度やリン濃度が高くなってきたら、水再生系へ移送して好気性硝化脱窒槽での脱窒、殺菌・脱色槽での消毒剤による殺菌・脱色という処理を行った後、加温して飼育槽へ返送している。
  • 陸上養殖では飼育槽を清潔に保つことが重要であり、業務の多くは水槽の掃除である。その他、人の手による給餌、水質検査、エビの健康状態確認を日常業務として行っている。
  • エビ養殖事業を通じて、電気・燃料を外部から購入しないことを基本コンセプトとした「食料・水・エネルギー・情報」の複合的なSDGsプロジェクトに協力してくれる企業とともに葛尾村の振興を目指している。
  • マネタイズの方針として、エビの釣堀、エビ料理店、エビの商品販売、エビの学習施設等日本で初めてのエビのテーマパークを作ることを目指している。
  • 一番の目的は、復興途上である葛尾村を含めた浜通り地域への交流人口を増やし、移住・定住や観光により地元経済活性化による復興に貢献することである。

2.1.4 水道事業との関わり

  • HANERU葛尾の創設のタイミングから水道事業、青少年育成事業等に関する包括連携協定を葛尾村と結び、現在は葛尾村全体の簡易水道の施設点検・水質検査・水道料金検針業務をHANERU葛尾にて受託している。
  • 受託前は若手技術者が一人で葛尾村全体の簡易水道の点検・水質検査等の業務を行っており緊急時に迅速な対応ができない状況であった。
  • 陸上養殖施設の管理業務は上下水道の施設管理や水質検査と共通する点が多く、現在はHANERU葛尾の社員のうち6名も技術者として従事しており、緊急時にも対応が可能であり安心・安全な水インフラの維持に貢献している。

2.2 鹿島田 浩二 氏/アトランティックサーモンの事例

2.2.1 サーモンの陸上養殖の動向

  • 主に発展途上国でのたんぱく源としての需要により、世界で水産業は伸び続けているが、漁業は頭打ちになっており需要の増加に応えているのは養殖業である。
  • サケ・マス類の養殖産業は直近10年では年平均成長率4%で伸び続けており、寒冷地でフィヨルド地形のあるノルウェーとチリで7~8割を占めている。
  • 近年は養殖業による海洋汚染等の環境への負荷が懸念されており、陸上養殖へ注目が集まっている。
  • 日本ではサケ・マス類の7~8割を輸入しており、輸入量は年間20~25万トン程度である。このうち、3万トンがアトランティックサーモンに代表される生鮮サーモンで残りは冷凍(銀サケ・トラウト等)である。
  • 日本では一般的に養殖で生産されるサケ科降海型の魚を「サーモン」と呼び、寄生虫リスクが低いため生食に供される。一方で、漁獲される天然のサケ科サケ属の降海型の魚を「鮭(サケ)」と呼び、火を通して食べられる。
  • 降海型に対して、陸封型のサケ科の魚は「鱒(マス)」「トラウト」と呼ばれることが多いが4種が明確に定義されているわけではない。
  • スーパーで見るサケ類には「銀鮭・解凍」「サーモントラウト・解凍」「生アトランティックサーモン」などの表記が見られるが、ピュアサーモンジャパンがベンチマークとしているのは生鮮空輸で輸送コストが高く値段も高い「生アトランティックサーモン」である。
  • 国内市場ではサーモンの需要は横ばいだが、14年連続で好きな寿司ネタに選ばれるなど若年層にも人気である。また、日本の寿司文化により世界に生食文化が広がったこともあり世界では需要の伸びが堅調である。
  • 生産技術の面では、北欧を中心として高い養殖技術、養殖用の機器・システムのサプライチェーンが確立されていることや、サーモンが低FCR(増肉係数:魚を1kg増やすのに餌が何kg必要かを示す指数)であることが、サーモン養殖が注目されている理由である。
  • 日本の陸上養殖は専門家によると現在3次ブームとのことである。水産庁への陸上養殖業が届け出制となった2023年以降の統計では年々件数が増加している。
  • 海面養殖に対する陸上養殖のメリットとして、輸送コストが低い、地域環境や生態系への影響がほぼない、病原菌・寄生虫リスクが0で、抗生物質やワクチンが不要、食料自給率への貢献、地域産業への貢献・地域活性化などが挙げられる。
  • 一方で、初期投資や運転コストが大きい、運転時のCO2負荷が大きい点が課題である。
  • 養殖業による閉鎖系水域への負荷を試算すると、例として年1万トンのサーモン養殖の事例では、日本の一人当たりの下水への排出量換算でT-Nでは約9万人相当、T-Pでは約3万人相当の計算となるが、陸上養殖ではこの負荷を削減することが可能である。
  • 脱炭素の面では、三重県での陸上養殖+陸送とノルウェーでの海面養殖+空輸を比較した場合、生産時のCO2排出量は陸上養殖のほうが大きいが、輸送時のCO2排出量は空輸のほうが大きく、トータルでの排出量は陸上養殖のほうが小さくなる。
  • サーモンの大型陸上養殖設備の建設・稼働が国内外で進んでおり、今後数年でサーモンの陸上養殖ビジネスが成長するかを見極められるという段階である。

2.2.2 ピュアサーモングループの事業概要

  • 本社はUAEのアブダビに所在。
  • 本社では設計建設、養殖生産、プロセス、ペットフードとそれぞれの専門性を持ったエンジニアが在籍しており、単なる養殖・販売だけでなく、自社で施設の設計・建設から養殖まで実施している。
  • 現在、日本(三重県)、ブルネイ、アメリカ、フランスの4か国でプロジェクトが進行している。建設段階に入っている三重プロジェクトが先頭を進んでおり2027年度に完成、最初の出荷を予定している。三重プロジェクトの敷地面積は13.7万m2、生産量は1万トン/年を予定している。
  • 設備は養殖場に加え、食品加工施設、食品に未利用分をペットフードに加工する施設を備える。また、淡水の排水処理設備、塩水の再生設備も備える。

2.2.3 サーモンの陸上養殖における水処理技術

  • 水処理システムとしては、サーモンの成長段階ごとの水槽にRAS(閉鎖循環式陸上養殖方法)と呼ばれる設備が備えられ水が循環利用される。
  • 一般的にサーモン用のRASプロセスでは、飼育槽内の水をドラムフィルター、UV処理、生物ろ過(硝化)、酸素供給を経て飼育槽へ返送し再利用する。ドラムフィルターから出た排水については一般的な下水処理と同様に脱窒、脱リン、固液分離を経て、液相は飼育槽へ返送、固相は場外へ排出する。
  • ピュアサーモンジャパンでは、一般的なRASプロセスよりもさらに高度な水再生技術の導入を計画している。

2.2.4 陸上養殖におけるその他の技術

  • 陸上養殖における水処理では、O2濃度に留意する必要があるため、液化酸素貯蔵設備などを保有し、停電時にもO2供給が止まらないシステムとする必要がある。
  • アンモニア除去、硝化技術も重要で、水処理分野ではあまり馴染みのない好気性脱窒技術が最近研究開発でも話題となっている。
  • 養殖魚では一般的に課題となるOff-flavour(2-MIB、ジェオスミン)抑制の技術も重要である。収穫前の餌抜き期間を設けることにより魚に蓄積した臭いの低減をする他、水システムでも循環水での殺菌、飼育槽の清掃といったメンテナンスによる系内での藍藻類、放線菌の増殖防止が行われている。
  • そのほか、循環水の殺菌、水槽の区画管理、オペレーターや搬入車両による汚染防止設備といったバイオセキュリティー関連技術や、チラー設備、熱交換器といった水温管理設備など水処理業界とは異なる技術がある。
  • 電力消費量、水循環システムの効率化、エサの調達コストの安定、代替飼料の開発、廃棄物の再利用などが今後の課題となると予想される。

3. 質疑応答

  • ①(鹿島田氏へ)サーモンの養殖は水温の低い地域であれば水温管理のコストを抑えて実施できそうだが、なぜ三重県が選定されたのか。

    ⇒消費地に近く、工業団地にまとまった広さの敷地を確保できることから三重県が選定された。輸送コストや鮮度の面で、消費地に近いことは重要である。

  • ②(鹿島田氏へ)なぜピュアサーモン社への入社を決めたのか。

    ⇒サーモンの陸上養殖というビジネスの筋が面白いと感じた点、自分の知らない世界での水処理プロセス、エンジニアリングを学ぶと面白そうと感じた点の2つがきっかけであった。

  • ③(両名へ)現時点での、水循環における課題はあるか。

    ⇒(鹿島田氏)養殖に利用される個々のプロセスについては確立された技術の組み合わせなので水処理自体は上手くいくと考えているが、それを用いた結果の養殖への影響については今後スタートしてみての結果を待ちたい。

    ⇒(松延氏)エビは魚のように一口で餌を食べるわけではないため餌の食べ残しが発生し、残った餌の量によっては、1日で水質が急激に変わる可能性がある。エビがどれくらい餌を食べているか確認しながら養殖したいが難しい。飼育槽内の除濁や脱色の技術にも課題がある。現状は水中掃除機で朝夕掃除をしないと残餌と糞で水が汚れる。これらの処理技術に開発要素がある。いかにコストをかけずにできるか引き続き検討していく。

  • ④(松延氏へ)バナメイエビの餌について、池底に溜まらないように鯉の餌などとして市場にあるような浮上性の餌を用いることはできないか。

    ⇒エビは沈んだ餌を取りに行き、それを抱えながらかじって食べるので、一旦餌が沈まないと食べない。一方、餌がずっと底に沈んでいるとエビが持ち上げられなくなる。また、エビが集まってきて底面積あたりの飼育密度が高くなると共食いしてしまう。現状10,000匹の稚エビを投入して3,000匹ほどが生き残る。安定してこの良好な歩留まりを維持・向上するため、早く成長させることのできる餌の研究や、餌となる魚粉の高騰の対策のため、代替たんぱく源などの研究を行っている。

  • ⑤(鹿島田氏へ)サーモン用RASで硝化だけではなく、脱窒まで行うとのことだが、ピュアサーモン社でそのような処理の実績があったのか。

    ⇒会社としてはプロジェクトが建設中の段階のため、大規模な飼育実績はまだないが、養殖の経験のあるエンジニアを集めており、エンジニアたちの知見により処理システムは構築している。

  • ⑥(鹿島田氏へ)質のよいサーモンの養殖には2-MIBやジェオスミンの課題があるとのことだったが、原水である工業用水の水質によっては2-MIB等の活性炭による前処理も必要になるのではないか。

    ⇒(鹿島田氏)2-MIBやジェオスミンについては、循環量に対して補充される工業用水の量は限られるため、原水水質よりも循環プロセスの中での原因生物の増殖の方が、影響があると考えている。ただ気づかなかった視点であり、今後の参考とさせていただきたい。

講演中の様子1

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