公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第56回水環境懇話会 議事録(令和5年8月22日)

蟹江 純一氏
株式会社フレンドマイクローブ
代表取締役社長

 第56回水環境懇話会では、株式会社フレンドマイクローブの蟹江純一氏をお招きし、起業した背景や、油脂排水処理技術、大学発ベンチャーの特徴等についてご講演頂いた。その後の質疑応答では参加者との活発な意見交換が行われた。

1.経歴紹介

 2019年3月名古屋大学大学院工学研究科 生命分子工学専攻 生命システム工学講座を卒業。2019年4月株式会社フレンドマイクローブに主任研究員として入社。営業・研究開発業務を務めながら2021年5月代表取締役に就任。2023年の春に初めての資金調達を終えられ、新たに株主となった独立系ベンチャーキャピタルの株式会社ジェネシアベンチャーズをはじめ、様々な企業とともに事業を加速させ、現在もご活躍中。『微生物の可能性を証明する』をモットーに日々ご尽力されている。

2.講演及び討論内容
2.1 会社概要
  • 株式会社フレンドマイクローブは名古屋大学発のベンチャー企業で、名古屋大学堀教授の研究成果を社会実装するため設立された。「微生物を友だちに」を社名に掲げ、微生物を用いた技術を実用化し持続的社会の実現に貢献している。
  • 2.2 研究資金調達
  • 様々な方面で研究支援や多数の賞を獲得され、またアクセラレーションプログラムにも多数採択され、研究資金獲得に繋がっている。
  • 2023年5月時点で総額2.3億円の資金調達を実施された。
  • 2.3 油脂含有排水処理の現状
  • 分離・精製容易な廃棄油は再利用や燃料への変換が進められてきているが、分離・精製が難しい廃棄油は薬品を利用して分離され産廃として焼却処分されている。
  • 加圧浮上分離法を用いた油脂含有排水処理では、油脂を物理的に分離しているが、悪臭発生・産廃費用の増大・運転が煩雑という課題がある。
  • 微生物を利用した油脂含有排水処理では、油脂を微生物により分解し、悪臭の解消・コスト削減・運転が容易というメリットがある。
  • 油脂含有排水処理の国内シェアは90%が加圧浮上分離、8%が油水分離と98%が物理的分離となっている。既存の微生物処理は2%にとどまっている。加圧浮上分離は油脂処理能力が高いが、高コストである。一方で、既存の微生物処理は低コストであるが、油脂処理能力が低い。
  • 2.4 フレンドマイクローブの油脂含有排水処理事業
  • ①分解速度が圧倒的に速い(他社と比べ10倍程度)、②高濃度油脂の分解が可能、③すべての動植物油の分解が可能という高性能油脂分解微生物を利用する。高効率培養装置を用いてこの微生物を培養し、油脂分解槽に投入し油脂を分解する。
  • 受注までの流れとして、東証プライム上場食品会社の一例では、5 Lのラボ試験から開始し、60 L実験用水槽での現場デモ試験、半年間の本番環境試験を経て本格導入まで進んでいる。
  • コア微生物技術や、工場排水処理システムなど一連の技術の特許を取得済み、または出願中である。
  • エンドユーザーにはイニシャルコストとして、微生物を培養し油脂分解槽に自動投入する微生物自動増幅投入装置を始めとして培養環境の整備費用が必要となり、ランニングコストとしては定期的に補充する種菌の微生物製剤を始めとする消耗品費用が必要となる。
  • 油脂分解槽は既存の水槽を利用することも可能であり、油脂分解槽の新設が必要というわけではない。
  • 油脂工場の排水処理の結果ではBOD、n-hex共に大幅に低下し、汚泥の沈降性も改善した。
  • 既存の微生物処理では①分解速度が遅い、②油脂の種類によって微生物の調合を変える必要がある、③排水処理施設全体として更新が必要という課題があり、普及を妨げていた。フレンドマイクローブの微生物処理では、①分解速度が速い、②すべての動植物油脂を分解可能、③既設の水槽を利用可能などという点により幅広い普及を目指す。
  • 2.5 今後の展望
  • グリーストラップに捕集された動植物油、生ごみ処理機内の動植物油に対しても、油脂分解微生物を利用した処理技術を試験中である。
  • 今後、鉱物油分解の領域にも展開していく。鉱物油排水処理は動植物油脂排水処理と比較して、市場規模6倍・高環境負荷・難分解性という特徴があり、より高度な技術開発が必要となる。これまでのノウハウを用いて高性能鉱物油分解微生物の開発に成功した。
  • 3.質疑応答
  • 3.1 食用油の再生燃料化が他社で行われているが、住み分けはできるか。
    ⇒分離精製が容易な油脂については、化学的に燃料に変換した方が効率が良いと考える。微生物を用いた反応は混ざりものの中で価値があると考えており、住み分けはできると考えている。
  • 3.2 分解菌を見つける苦労にはどんなものがあるか。
    ⇒分解速度を上げるところで組み合わせ等の検討に苦労があった。いい分解菌を見つける点と、分解菌単独では実用化に向けては難しいので、複数の混合系で能力を高めていく点に苦労があった。
  • 3.3 添加した分解菌が環境中に放出されても問題はないか。
    ⇒開放系で用いるため、遺伝子組み換え微生物は使用しておらず、自然界から単離された微生物を使用している。病原性など各種特徴は調査済みであり、環境中に放出されても問題無い微生物を使用している。また、油分解菌は他の微生物と比べて増殖速度が遅いため、環境中では自然と淘汰されていくため問題無い。
  • 3.4 好気反応以外での適応性はあるか。
    ⇒油分解反応では基本的に酸素が必要となる。ただ、リパーゼにより油脂を脂肪酸に変換する反応には酸素が必要ではないため、リパーゼを多く分泌させ、その後嫌気環境で脂肪酸から何らかの物質を生産するというプロセスはテーマとしては興味深いと考えられる。
  • 3.5 従来の加圧浮上処理と比べてCO2発生量が少ないとされているが、LCAはどこまでの範囲で考慮されているか。油脂分解槽でのDO供給の曝気動力の増加まで考慮されているか。
    ⇒曝気動力の増加まで考慮している。加圧浮上では汚泥の運搬、石油燃料を利用した焼却でCO2発生量が増える。
  • 3.6 北海道などの低温環境でも対応可能か。また、機器の更新等があった際に処理の再立ち上げに必要な期間はどれくらいか。
    ⇒15~42℃で対応可能。50~60℃の排水だと冷却が必要。再立ち上げは24時間程度で可能。
  • 3.7 処理対象の物質の構造がわかれば分解可能かどうかわかるか。
    ⇒分解可能かどうかはある程度見当をつけられる。
  • 3.8 油分解微生物はどのようなところで発見されたか。
    ⇒動植物油が存在する環境を複数サンプリングして発見した。
  • 3.9 一時的に油脂排水が増えた際に活性汚泥に種菌を注入すれば対応可能か。どれくらいの量が必要か。
    ⇒排水量に対して1/1000量くらいの種菌の培養が必要。活性汚泥の中で油脂分解微生物は淘汰されやすいのでどう挙動するか調べていく必要がある。前曝気槽があればそこに投入するのも良いと考えられる。
  • 3.10 大学との共同研究を実施する際、スピード感は遅いと思われるが、進捗管理やテーマ選定などで何か工夫はされているか。
    ⇒達成したい目標をしっかり定めること。大学だと締め切りに向けて研究を進めることが多いので、定期的に進捗報告をするなど。
  • 講演中の様子(現地会場)
    講演中の様子(Zoom)
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