公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第55回水環境懇話会 議事録(令和5年2月21日)

松井 隆氏
株式会社日立製作所
水・環境ビジネスユニット
水事業部 ソリューション事業推進部 部長

 第55回水環境懇話会では、株式会社日立製作所の松井隆氏をお招きし、水道広域連携の実現に向けたICTの貢献について講演いただいた。その後の質疑応答では参加者との活発な意見交換が行われた。

1.経歴紹介

 松井様は同志社大学大学院を修了後、2000年に株式会社日立製作所(以下、日立)に入社された。その後、送変電設備の設計や防衛関連システムの設計に従事後、国・自治体向け防災システムに関する提案・開発・運用の取り纏めに従事された。2021年には戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)にて開発したSIP4Dで国際的なアワードであるR&D100を受賞された。

2.講演内容

水道広域連携の実現に向けたICTの貢献についてご講演いただいた。


①水道事業者の課題およびその解決策としての広域連携について
  • 水道事業者は経営環境の悪化、水道施設の老朽化、耐震性の不足、職員の減少といった様々な課題を抱えている。
  • それらへの施策として、適切な資産管理、広域連携の推進、官民連携の推進、災害対策の強化、がある。
  • 広域連携には、各市町・県などが水道事業を一体化して経営する「経営統合」と、各市町・県などが連携し業務の共同実施や施設・システムの共同利用などを実施する「業務の共同化」がある。
  • 広域連携では、建設改良費の削減、維持管理費の削減、システム経費の削減といった定量的効果と、職員体制・技術力の確保、安定水源の確保と未普及地域の解消、水道料金・サービスの安定化、災害時の対応能力強化といった定性的効果がある。
  • 例として挙げた、四国の各県における広域化推進プランのピックアップからも、広域連携がコストの削減に大きく寄与することがわかる。
  • ②広域連携におけるICTの活用
  • 統廃合支援、広域管理、業務支援、システム共通化等を通じて、ICTはコスト削減に貢献できる。建設改良費の削減においてはデータ分析による統廃合支援、維持管理費の削減においては広域的な遠隔監視・制御およびAI・IoTセンサ等による業務支援、システム経費の削減においてはクラウド等によるシステム共通化に対してICTを活用できる。
  • 日立は広域連携に寄与する様々なデジタルソリューションを有している。例として、施設統廃合計画支援や、設備状態診断・劣化予測のソリューションがある。
  • 日立は統合DX基盤(プラットフォーム)により、基礎自治体が有する各浄水場からの運転データおよび点検データを収集するとともに各社のソリューションの共有を行うことで、水道事業の広域化を実現する取り組みも行っている。
  • 広島県では標準のプロトコルを整備しながら広域化をしようとしている。2022年度に広島県の浄水場9か所の広域運転監視・制御システムを日立・水みらい広島のJVが受注した。今後はこのような案件が増えていくと思われる。本件は国が策定した水道情報活用システム標準仕様に準拠した水道標準プラットフォームであり、異なるシステム間でも横断的にデータを活用できる共通プラットフォームであるため、水道事業の広域化・DXに広く活用することで、コスト削減に貢献する。
  • 情報を集める「器」である日立の統合DX基盤は、上下水道事業以外の環境分野や産業分野等の他分野との連携を前提としている。外部との連携が容易にできるプラットフォームを志向しており、API等で他社のサービスと連携することができる。
  • ③ICTによる持続可能な事業運営の実現
  • 日立はCPS(現実世界を見える化しサイバー空間に置き換えて、把握・分析し精緻な将来予測を行うシステム)を実現することで、将来の課題に先手を打つことで、上下水道事業を持続可能なものにしていくことを目指している。
  • 顧客や社会の課題解決を図るためには、水道だけでなくより広い視点で考えていくことが重要である。また、他分野のソリューションを水道分野に適用することも考えられる。
  • 日立のプラットフォーム(統合DX基盤)上で他社がサービスを提供したり、日立が他社のプラットフォーム上でサービスを提供するといったこともありえる。プラットフォーム(基盤)はひとつである必要はない。
  • 3.質疑
  • ①それぞれの会社のレガシー(既設システム)の有するデータは、会社単位で共有化できるのか。あるいは、個々の施設について対応が必要なのか。
    ⇒各社それぞれ監視装置において、情報を外部に出力する仕組みをもっている。出力された情報(ファイルデータ)を、異なるシステム間で連携するためのプロトコルやインタフェースの仕組みを双方合意のもと設定・構築すれば、異なる会社間でデータ共有できる。ただ、個々の施設の仕様によっては処置が煩雑でありコストがかかる場合もある。今後、ポリシーの共有を前提とした標準プロトコル・インタフェースの整備が進めば、もっと簡単に各社のシステムが他社のシステムと連携できるようになる。
  • ②紙等のアナログ媒体で保存されている設備情報を、電子設備台帳に自動で取り込む仕組みなどはあるのか。
    ⇒紙媒体を人が苦労しながら電子化して対応することが多い。自動化への取組も行っているが、フリーフォーマットの場合など難しい場合もある。帳票の見直し含めた自動化ツールを作る方が早いか、人が電子化する方が早いか、というところから検討する必要がある。また、選択式にする、必須項目の絞りこみを行う等で入力の手間を軽減する仕組みも考えられる。
  • ③ICT活用によるコスト削減を中心に説明いただいたが、海外などではリスク削減をメリットにあげるケースが多いと認識しており、その観点ではどのように考えるか。
    ⇒例えば人が行う事務に対して自動化の範囲を広げる、判断要素をルール化して属人要素を減らすことはリスク削減への貢献につながるものと考えている。ご指摘の通り、海外ではICT活用によるリスク削減をメリットにあげるほうが一般的かもしれない。
  • ④他分野でも同じプラットフォームを使う、という話があったが、水道分野のICT活用情報は他分野と比べて進んでいるか、遅れているか。
    ⇒産業分野と比較すると遅れている。また、防災分野における災害対応では2週間から1カ月の期間で200前後の異なるシステムやデータと連携した実績があるが、データ連携のスピードが重要視される分野もある。
  • ⑤広島県の広域化において、クラウドからの制御(出力)があるということだが、このような形が水道分野でも一般的になっていくのか。セキュリティの観点などからはどうか。
    ⇒産業分野においては通信の帯域確保や冗長化を前提に、クラウドからの監視制御を行う事例も増えている。しかしながら、水道分野においてはまだ導入事例は少ない。広島県では技術検証を実施し問題ないことを確認しているものの、ルールの見直し含めて確実な危機管理態勢の構築が必要であり、すぐに導入できるというものでもない。その補償が担保できるまでの間は、制御までは踏み込まずに監視のみになると思われる。
  • ⑥防災システムの広域連携は2週間で構築できた実績があるとのことだが、これは1社のシステムにまとめることによって実現したのか。
    ⇒各社のシステムについてインタフェースの分析・調整を行った上で、共通的なデータ流通基盤を介して我々がハブとなって連携させた。データ共有をスムーズに行うためにはベンダーロックインと言われるような独自仕様がなるべく無い方が望ましいが、全てのシステムが標準仕様に準拠するまで待つよりも、相手の仕様に合わせるアプローチのほうが実行上は必要となるし、それを効率良く実施するための、基盤側としてのルールや手順の整備が決め手になると考えている。今後は皆がそのような協調的な連携ができるようノウハウを惜しまず提供していきたい。
  • 講演中の様子(Zoomにて開催)
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