第54回水環境懇話会 議事録(令和4年12月5日)
-
第54回水環境懇話会では、株式会社DK-Powerの西垣裕幸氏をお招きし、マイクロ水力発電の技術や導入モデルについてご講演頂いた。その後の質疑応答では参加者との活発な意見交換が行われた。
- 1.経歴紹介
-
2001年3月に関西大学工学部機械システム工学科を卒業。2001年4月にオリジン電気株式会社(現:株式会社オリジン)メカトロニクス事業部にエンジニアとして入社。2004年7月には中国上海現地法人の工場の立ち上げに従事され、2015年にダイキン工業研究所のスタートアップ組織に合流。2017年に設立されたDK-Powerの初期メンバーとなられ、唯一のプロパーとして現在もご活躍中。『米と電気は自分でつくろう』『随身観美』『国をよくするには地方から』をモットーに日々ご尽力されている。
- 2.講演及び討論内容
-
2.1 会社概要
- DK-Powerはダイキン工業の研究所発のベンチャー企業で現在社員は11名。自然エネルギーなどによる発電設備の設置、運用および保守管理などの事業を行っている。
-
2.2 自治体の需要
- 804の自治体がカーボンニュートラルを表明している(2022年11月30日時点)。
-
2.3 マイクロ水力発電の概要
- 概ね発電出力100 kW以下がマイクロ水力発電とされている。
- 50 kW以上では高圧系統連系となり、系統連系が難しい地域が多いこともあり、DK-Powerでは50 kW未満の低圧系統連系での売電を得意としている。
- 例えば、奈良県では大部分で50 kW以上の系統連携が困難。
- FITの調達価格は200 kW未満において2024年度までの申請では34円/kWh(20年固定調達価格)。
- 水力発電の種類として、「管水路」と「開水路」がある。管水路は配管の内部が水で満たされ、流れる水が空気と接していない水路。開水路は逆に流れる水が空気と接している水路。DK-Powerが得意としているのは管水路でのマイクロ水力発電。
- 水力発電には夾雑物というハードルがある。上水では夾雑物が含まれないため、水力発電を実施しやすい。よって、DK-Powerでは浄水場・配水池などを主なマーケットとしている。
-
2.4 DK-Powerのマイクロ水力発電導入スキーム
- 「場所貸し」というスキームで行っている。
- 自治体では、①お金が無い、②人材がいないなどの点が課題となっている。そこで、自治体から場所を借りて、電気工事、管工事等のイニシャル費用を負担し発電システムを設置する。DK-Powerが発電事業者となって一切の自治体の負担なく、保守、メンテを実施する。
- 自治体のメリットとしては、①20年間、費用負担無く官民連携の方法でカーボンニュートラルに貢献できること、②場所貸しは民間投資故、設置した市町村に固定資産税が納付されること(自治体からすると税収となる)、③利益を水道局と折半できること(a:納付金、b:BCPへの再投資、c:ZEB等への再投資(エアコンなど))、④工事で地域にお金を還元できること、⑤20年後も再エネ電源として利用できること、がある。
- 導入数は、北海道から沖縄まで全国50か所まで増えてきた。水道事業では日本で一番の導入数となる。水道職員が600人ほどのマンパワーがある自治体から、職員6人の小さな自治体まで幅広く導入頂いている。
-
2.5 DK-Powerの発電技術
- DK-Powerの発電システムに用いる水車には、国産の水道規格の縦型の水道用ポンプを逆回転させて使用しているポンプ逆転水車を採用している。水道用のポンプ部品を使用することで、水車を導入することによる水の安全への懸念を払しょくすることができる。
- 水量により出力が変動するが、AC/DCコンバータで直流変換し、PCSで50Hz、60Hzの電力にしている。ここにダイキンのインバーター技術が含まれている。
- メリットとしては、縦型のポンプを使うので場所を取らない、特許取得の水冷方式を採用しており住宅地への静音対策が実現できる、契約から発電開始まで約10か月以内で実現できることなどが挙げられる。
- 独自の水冷機構での発電機・発電コントローラの冷却技術があり、特許を取得している。
- 遠隔監視はスマートフォンやタブレットでも行える。
-
2.6 導入事例
- 既設の配管に電磁流量計、水車、電動弁を追加する形で導入可能。
- 福島県内の用水事業(住所は福島市)の水道水(塩素の入った送水系)75 kWクラス導入の事例では、高圧系統連系不可であり出力49.9kWでの発電事業であるが、稼働率99.6%の安定した発電事業を行っている。太陽光では稼働率は13%ほどだが、水道事業でのマイクロ水力発電では、雨が降っても夜でも発電できるため、非常に安定している。
- 八尾市の事例など、要求があれば75 kW×4系列などの大規模でも実施できる。
- 熱海市の事例など、発電所を外置きしキュービクルBOXの中に収めた。全国小学生4年生の社会見学時の見学対応用に利用されている。子供たちへの環境学習に活用されている。
-
2.7 発電量の試算方法
- 水力発電で利用できる水のエネルギーは、有効落差と流量で決まる。
- 発電電力(kW) = 流量(m3/s) × 有効落差(m) × 重力加速度(m/s2) × 総合効率(-)。
- 有効落差:発電に利用できる残圧
-
2.8 ラインナップ
- 22 kW/75 kWクラス(流量 250 m3/h~、有効落差 25 m~)、小容量5.5 kWクラス(流量 60 m3/h~、有効落差 25 m~)、低落差モデル(流量 900 m3/h~、有効落差 10 m~)のラインナップがある。
- 低落差モデルは浄水場の導水系や調整池などへ導入の可能性がある。
-
2.9 未利用エネルギーが活用できる条件例
- 高低差を利用した位置エネルギーだけでなく、平地・ポンプアップでも実績ができてきた。例えば、1つのポンプで複数の標高の異なる貯水池に送っている事例がある。その標高差で生まれる余剰エネルギーを有効活用し大阪や愛知など平地の多い自治体でも、適用できる箇所が沢山確認され実施に至った。
- 通常はバルブを絞ってエネルギーが熱に変わり無駄になっていた。そのエネルギーをマイクロ水力発電で取り出す。
-
2.10 BCPへの貢献
- 水力発電システムは、水が流れている限り発電できるため、蓄電池のような役割を持つ。地域における防災の備えとして活用できる。
- 電力供給先はEVや防災無線など。
- 可搬式蓄電池に給電し、水道水とともに、電気を給水車で避難所などに搬送することも可能。
-
2.11 PPAの活用
- 電力販売契約(PPA:Power Purchase Agreement)が太陽光を中心に広がっている。
- FITが終了した2040年代以降は、①撤去、②無償譲渡(おそらく選ばれない。維持管理が必要となるため)の他、③PPAへ変更し発電事業を継続するパターンが考えられる。
- 3.質疑応答
-
- 3.1 初号機の苦労は?実績がないことにはスキームが大変かと思う。どう工夫されたか。 ⇒初号機は9年前ダイキン工業で環境省と活動していた時に導入。カーボンニュートラルの追い風はあったが、お客様の意識は水の安全運用。本当に水道施設に入れていいものかという懸念があった。お客様の懸念の払しょくなどに苦労した。
- 3.2 最初からPPAで自家消費という提案はないのか? ⇒PPAで自家消費するよりも、電力会社から買う方が安くなるため、通常提案しにくい。太陽光による発電電力より安くならない。ただし、140 kWの事例で、高圧電力となるのを避けるため複数のマイクロ水力発電に分割して提案し、1号機はFITで、2号機はPPAにて導入した。このように複数に分ける際に、売電とPPAとすることもある。また、今後電気料金がさらに高くなってくると初めからPPAとなることもあり得る。
- 3.3 小規模の水道事業体で適用できる範囲、最小水量、最小圧力の目安があれば教えてほしい。 ⇒流量×有効落差により出力が決まり、その結果から採算の取りやすい・効率の良い機器を選定する。DK-Powerでは条件を入力すると簡単にシミュレーションできるソフトを開発し、使用しており、その結果に従い適用を検討する。なお、ラインナップの機器を導入しても、圧力が余る場合は、機器を直列させ、流量が余る場合は並列させる。キャビテーションは水車の後段の流量調整弁の性能により対策できる。
- 3.4 原水で使いにくい理由は? ⇒原水とは沈砂池前の水を指す。硬いものでも5 mm四方の夾雑物であれば問題ない。長い形状のものやクルミ等は難しい。必要に応じてストレーナーを導入すれば、原水にも適用可能である。
- 3.5 垂直の流れ(ビルなど)に適用できないか?他に用途はないか? ⇒発電機の仕様上、一旦横向きの流れを作って設置する必要がある。ビルなどでは水量が足りないかもしれない。その他の用途としては、発電機の冷却水、ゴミ焼却場の冷却水、米などの農業用水、製紙・製鉄などの工業用水など。一番困っているのは下水への適用。水量は多くあるが、放流する落差が2、3 mほどと小さい。超々低落差モデルができればマーケットになり得る。
講演中の様子(Zoomにて開催) |