公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第48回水環境懇話会 議事録(令和元年10月18日)

関根 智一 氏
荏原工業洗浄株式会社 技術統括
二見 賢一 氏
水ingエンジニアリング株式会社 開発統括

 第48回水環境懇話会では、「除染」をテーマに、荏原工業洗浄株式会社技術統括の関根智一氏と水ingエンジニアリング株式会社開発統括の二見賢一氏をお招きした。福島第一原発事故発生当時の状況や現状についてのお話しを交えながら、放射性物質及び除染に関する基礎と化学薬品を用いた除染技術の開発についてお話しいただいた。その後、質疑応答が行われた。

1.経歴紹介

関根智一氏
 1994年に日本大学大学院理工学研究科を修了し、荏原工業洗浄株式会社に入社された。入社当時は現場対応の化学部門、入社10年頃より研究開発部門に在籍され、原子力発電所の系統化学除染工事、原子力分野での廃棄物削減等の研究に従事された。2011年の東日本大震災以降は、環境放射能汚染研究や原子力部門の廃棄物処理、重質油洗浄剤の開発に従事し現在に至る。

二見賢一氏
 1993年に北海道大学水産学部を卒業し、荏原インフィルコ(現水ingエンジニアリング株式会社)に入社された。水処理技術、ガス処理技術、土壌地下水汚染浄化技術の研究開発に携わられた。除染関連業務は2011年の原発事故後から関わりはじめ、土壌からの放射性物質除去技術の開発等を行ってきた。2016年から環境放射能除染学会誌の編集委員を務めている。

2.講演及び討論内容

 講演前半は関根氏より①放射性物質に関する基礎、②除染に関する基礎についてご説明いただき、後半は二見氏より③除染技術開発の背景、④化学薬品を用いた除染技術の開発についてご講演頂いた。

①放射性物質に関する基礎
  • 放射性物質から放出される粒子や電磁波のことを放射線、放射性物質が放射線を出す能力を放射能と呼ぶ。電灯にたとえると、放射性物質が「電球」、放射線が「光線」、放射能が「光を出す能力」となる。
  • 放射能の強さや放射線の影響を表すには、「ベクレル」や「シーベルト」という単位が使用される。ベクレル(Bq)は物質中の放射性物質がもつ放射能の強さを表す単位、シーベルト(Sv)は人が受けた放射線の健康への影響を表す単位である。
  • 注目すべき放射性物質として、定常運転原子炉(福島第一原発以外)で生成される放射化生成物(CP)と事故炉(福島第一原発)で生成される核分裂生成物(FP)がある。東日本大震災前は前者の放射性管理のみでよかったが、現在は後者も留意する必要がある。
  • ②除染に関する基礎
  • 本来の除染とは、放射性物質を外部に出さないことが第一前提であり、「放射線管理区域内において、作業者が受ける放射線の量を減らすために、放射性物質を取り除く事」である。しかし、東日本大震災により環境中に放出されたため、環境省は「生活する空間において受ける放射線の量を減らすために、放射性物質を取りのぞいたり、土で覆ったりすること」と定義を変更している。
  • 除染の種類には、物理除染、化学除染、電気化学除染がある。物理除染には、人手による手拭き、はつりや機械的な物理力による除去(ブラスト除染)等があり、福島県等に放出された放射性物質の除去はほぼ物理除染により行われている。
  • ③除染技術開発の背景
  • 除染作業により発生した汚染土壌約1400万m3のうち、中間貯蔵施設に輸送された土壌は2019年10月3日現在で約430万m3であり、残りは仮置場に保管されている。国の法律では、中間貯蔵施設で30年間保管した後、最終処分を行うことを定めているが、大量の汚染土壌を保管するだけの土地を確保できていないのが現状である。
  • 中間貯蔵施設で発生するであろう分級後土壌のうち、シルト・粘土等の細粒分には高濃度のセシウムが吸着している。この高濃度のセシウムを回収・濃縮することで汚染土壌の処分量を削減することが本除染技術開発の目的である。
  • ④化学薬品を用いた除染技術の開発
  • 土壌(細粒分の雲母等)に吸着しているセシウムは容易に水や酸で溶離できない。様々な条件で試験を行い、酸+塩が有効であることと土壌粒子はシリカ鉱物であることを踏まえて、最終的に配管のシリカスケール除去剤として利用されている酸性フッ化アンモニウムを薬剤(主剤)として採用した。
  • 酸性フッ化アンモニウムを主剤とする薬液を用いて、常温・常圧・10分程度で土壌細粒分から放射性セシウムを溶離し、フェロシアン化物塩に濃縮することで1/100未満の重量で回収可能、薬剤再利用も加味したシステムフローを構築した。
  •  その他、今年7月に福島第一原発周辺を訪問された際の写真等を交えながら、除染作業の現状についてお話しいただいた。
     質疑応答では、紹介された除染技術に対する疑問点や環境除染等に関して活発な議論がなされた。一部として、以下を挙げる。
  • ブラスト除染におけるドライアイス昇華について、ガス化で環境中に放出されるリスクはないのか。
  • 環境放射線基準と環境除染基準値の区分についてどのように考えればよいか。
  • <参考サイト>

    ・農林水産省「放射性物質の基礎知識」
     http://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/saigai/kiso_chishiki.html


    除染や中間貯蔵に関しては下記環境省のホームページを参照

    ・除染:http://josen.env.go.jp/
    ・環境省「除染事業誌」:
     http://josen.env.go.jp/archive/decontamination_project_report/
    中間貯蔵施設:http://josen.env.go.jp/chukanchozou/
    中間貯蔵事業:http://www.jesconet.co.jp/interim/index.html
    中間貯蔵除去土壌等の減容・再利用技術開発戦略工程などの資料:
     http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_190319_02.pdf?190416
    除染に関する政策資料:http://josen.env.go.jp/material/index.html
    環境回復検討会:http://josen.env.go.jp/material/session/index.html

    関根氏講演の様子
    二見氏講演の様子
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