第44回水環境懇話会 議事録(平成30年2月15日)
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第44回水環境懇話会では、多木化学株式会社化学品営業部の高松知愛氏、前本陽平氏、大西啓太氏をお招きし、無機凝集剤の概要、超高塩基度PACの特徴についてお話頂いた。その後、質疑応答が行われた。
- 1.経歴紹介
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高松知愛氏
2009年に入社され、当時の精密化学品営業部に配属され、無機材料の開発営業を担当された。その後、化学品営業部の水処理凝集剤の開発を担当されている。
前本陽平氏2005年に入社され、化学品営業部海外開発と研究所を兼務され、2006年から東京営業所、2010年から化学品開発・海外開発と経営企画部(海外投資関係)に携わっている。
- 2.講演及び討論内容
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会社概要、無機凝集剤及びPACの種類について簡潔にご説明頂き、超高塩基度PACの特徴及び採用事例についてご講演頂いた。
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①会社概要、無機凝集剤及びPACの種類
まず会社概要、無機凝集剤についてご説明頂いた。
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会社沿革
昭和37年PAC(塩基度50%)の販売開始
平成21年超高塩基度PAC(塩基度70%)を開発
平成28年超高塩基度PACのJWWA認証を取得 -
代表的な無機凝集剤について
国内では、硫酸アルミニウムとポリ塩化アルミニウムが広く使用されており、有機物除去に優れている鉄系凝集剤は、着色のリスクがあることから、使用されていることが少ない。アルミニウム系凝集剤の特徴としては、フロック形成が容易であることや着色しないことなどが挙げられる。 -
PACの分類について
PACの種類は塩基度によって普通塩基度PAC(塩基度50%)、高塩基度PAC(塩基度60%)、超高塩基度PAC(塩基度70%)に分類される。一般的に塩基度を高めると安定性が悪くなる傾向があり、JWWA規格では塩基度が45~75%で規定されている。なお、超高塩基度PACについては普通塩基度PACや高塩基度PACよりも安定性が良い。
多木化学では、普通塩基度PAC(塩基度50%)をベースに、低温・低アルカリ対応の高塩基度PAC(塩基度60%)と低残留Alで有機物除去に優れた超高塩基度PAC(塩基度70%)を製造している。平成16年4月より水道水質基準項目にAl 0.2mg/L以下、平成21年4月より水質管理目標設定項目にAl 0.1mg/L以下が追加されたため、PAC自体に低残留アルミニウム性を機能化させることを目的に超高塩基度PACが開発された。
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会社沿革
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②超高塩基度PACの特徴
超高塩基度PACの特徴について、各種データを用いて分かりやすくご説明頂いた。- 超高塩基度PACは浄水処理後の残留アルミニウムを低減できる。
- 超高塩基度PACは、有機物が多い原水に対して、普通塩基度PACよりもE260 及び総トリハロメタン生成能の除去性に優れている。
- 超高塩基度PACは普通塩基度PACと比較して、pH調整をしない場合でも藻類の除去率が高く、藻類による凝集阻害を抑制することが可能である。
- ゼータ電位-20~-30mVの原水中懸濁物質は、PACを注入することで荷電中和し、最適な凝集範囲±10mVに入ることで凝集する。超高塩基度PACは、普通塩基度PACよりも少ない注入率で、ゼータ電位を最適凝集範囲に入れることができ、高pHにおいても荷電中和率が高いため、高い除濁効率を示す。
- 超高塩基度PACは膜ろ過のファウリングを抑制することができ、普通塩基度PACと比較して膜差圧挙動が安定するため、薬品洗浄周期が倍以上となる。
- 45℃保存において沈殿が生じるまでの日数の比較では、従来品が8日であるのに対して、超高塩基度PACは30日以上と保存性に優れており、また希釈安定性も高い。
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③採用事例
浄水場における超高塩基度PACの採用事例を通して、凝集剤注入率の削減、汚泥減容化、残留アルミニウムの低減等の特長をご紹介頂いた。 -
②まとめ
- 超高塩基度PACは、凝集性、保存安定性、有機物除去性、低残留アルミニウム性の点で優れており、注入率削減等により薬剤コストが削減可能となる。
- 低アルカリ・フロック成長速度については高塩基度PACの方が優れており、全ての原水に対して超高塩基度PACが最も有用な凝集剤というわけではない。各浄水場の抱える課題は様々であり、超高塩基度PACの特長を活かせる原水に適用する必要がある。
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質疑応答では、採用事例に対する疑問点やPACの使用方法に関して活発な議論がなされた。
一部として、以下を挙げる。- 塩基度をより上げた場合のPACはどうなるのか。
- 各PACのブレンドは可能か。
- 緊急時用に2年保存していたPACが使用する際にゲル化していたが、効果はあるのか。
講演の様子 |