公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第36回水環境懇話会 議事録(平成26年8月6日)

高橋 良文 氏
東京都下水道サービス株式会社

「創立30周年を迎えた東京都下水道サービス(TGS) -株式会社形態の第三セクター、その取組-」

 第36回水環境懇話会は、東京都下水道サービス株式会社(以下TGSと略す)の高橋良文氏をお招きし、東京の下水道とTGSの役割、設立の背景と目的・趣旨、TGSが担う事業とその進め方、TGSが目指すものについてお話頂いた。 その後、質疑応答を行った。

1.経歴紹介

昭和46 年3 月、日本大学理工学部土木工学科卒業後、同年4 月、東京都に採用されました。下水道局では、長年に亘り技術開発、計画部門に従事されました。計画調整部副参事(緊急重点雨水対策事業担当)、事業調整課長、東京都下水道サービス株式会社技術部長などを歴任された後、平成19 年6 月から東京都下水道局技術開発担当部長をお務めになられました。現在、東京都下水道サービス株式会社の専務取締役としてご勤務されております。

2.講演及び討論内容

 まず東京都の下水道とTGSの役割についてお話頂いた。 東京都下水道局は特別区には公共下水道事業、多摩市には流域下水道事業を行っており、人口約1,316万人に対して下水道事業を運営している。 この大規模な下水道事業を運営するために、事業実施に責任を持つ東京都下水道局を中心として、TGS、及び民間事業者がそれぞれの特性を活かした役割分担のもと、連携して運営している。 下水道局は経営方針の策定や、施設の建設、重要な維持管理、水質規制等の根幹業務を担い、TGSは専門的技術を活かしつつ下水道局と密接して行う必要のある業務を担い、民間事業者は定型業務をはじめ民間事業者で可能な業務を担っている。

 次にTGSの設立の背景と目的・趣旨についてご説明頂いた。 TGSの設立は1984年に遡り、当時の都財政は大きな赤字を抱えていたこと、普及促進と維持管理体制の拡充が課題であったこと、石油ショックにより省資源や省エネルギー等が求められていたこと、職員数は5000人にも昇り下水道局組織が肥大化出来ない状況であったことから、下水道事業を補完・代行する組織が必要となり、株式会社の第三セクターであるTGSが設立された。

  TGSの目的・趣旨についてご説明を頂いた。

  • ①きめ細やかな都民へのサービス(普及促進と既存施設の維持管理)
  • ②下水道局組織の肥大化の抑制
  • ③技能、経験を有するOB下水道技術者の活用
  • ④民間活力(資金、技術、経営意識)導入による効率化

  続いてTGSの担う事業とその進め方についてご説明頂いた。まずTGSの担う事業として、

  • ①お客様サービスを最前線で支える(下水道受付センター、管理維持管理等)
  • ②処理施設の運転・管理を支える(水処理、汚泥処理等)
  • ③環境負荷の低減に貢献(再生水供給、汚泥の資源化等)
  • ④再構築・改良事業を支える(調査、積算システム、管路設計積算等)
  • ⑤下水道の未来を築く(技術開発、人材育成、技術継承等)
  • ⑥世界の水環境改善に寄与する(事業支援、技術提供、人材交流等)

  を挙げられた。この内、①の下水道受付センター事業、管路維持管理事業、⑤の技術開発については、具体的な事例をあげてご説明頂いた。

 まず下水道受付センター事業についてご説明頂いた。TGS設立前は下水道局職員が閉庁時間帯もお客様の通報を直接受ける体制で対応していたが、TGS設立後は夜間や休日の受付業務をTGSが担った。主な業務は、下水道に関わる故障の通報、苦情等を一元的に受け、その場で回答・案内することである。ワンストップサービスの提供を強く意識され、行政経験と下水道実務経験を併せ持った下水道局OB社員が対応しているとのことであった。

 次に管路施設の維持管理事業についてご説明頂いた。昭和40年代後半から下水道普及促進と維持管理が求められる中で、膨大な管路施設を効率的に維持管理するために、下水道局は昭和51年に夜間の故障処理等を民間企業に委託し、平成16年に管路維持管理業務(緊急処理受付、夜間立会業務、公共ます工事施工管理等)をTGSに委託した。特徴を活かした役割分担を行うことで、お客様からの信頼確保、故障発生時の迅速な対応と効果的な調査、予防保全型維持管理への貢献、加えて作業性・安全性の向上や環境改善、コスト削減への貢献を実現された。

 さらに技術開発事業についてご説明頂いた。技術開発は調査・診断、設計、建設、維持管理など下水道事業に関わるすべてを対象に実施しており、実用化されている特許が平成25年までに245件にも上っていることや出願件数(433件)に対する割合からも、事業化、実用化を意識して下水道事業に求められているものを開発しているとお話頂いた。またDO-Jet工法やSPR工法、下水道管渠診断システム、防臭リッド等各技術についてもご紹介頂いた。

 最後にTGSが目指すものとして、世界一の水企業を掲げられた。そのために、以下4点を挙げられた。

  • 1 管路から処理施設までの総合下水道企業として、東京都下水道局と一体となり東京の下水道事業の将来を担う
  • 2 技術、ノウハウを国内外の下水道に関わる課題解決のために活用、支援する
  • 3 さらなる業務改善、技術開発、人材育成に取り組む
  • 4 社員一同が一丸となり世界一の水企業という目標に取り組む

 質疑応答では、SPR工法や技術開発テーマの選定方法、国際協力、人材育成等多岐にわたって活発な議論がされた。

講演の様子
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