公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

活動報告

第29回 水環境懇話会(平成24年1月11日)

Victor Shiholo Muhandiki氏
名古屋大学大学院寄付講座教授
工学研究科インフラ技術開発・移転講座(NEXCO中日本)寄付講座

第29回水環境懇話会では、名古屋大学のVictor Shiholo Muhandiki氏を招待し、技術の国際移転をテーマとしてご講演頂いた。その後同テーマについて討議時間を1時間設け、Muhandiki氏と聴講者による活発な議論が行われた。今回の講演及び討議内容を以下に記載する。

1.所属紹介

名古屋大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻は、2011年で学科発足より50周年を迎え、新たな50年の取り組むべき課題として、インフラ技術開発・移転講座(NEXCO中日本)寄付講座が設置された。

2.経歴紹介

Muhandiki氏は、1993年にナイロビ大学土木工学科を卒業したのち、1995年に文部省奨学生として来日し、2001年に京都大学大学院博士課程を修了された。2001~2004年まで財団法人国際湖沼環境委員会(以下、ILEC)に在籍し、2004~2008年まで立命館大学で、2008~2011年まで名古屋大学国際環境人材育成プログラムで教鞭を取り、現在に至る。

京都大学大学院時代は下水処理の研究を行い、ILEC在籍時代に世界の湖沼管理評価のプロジェクトに携わり、Managementの重要性を感じたとのことである。これまでの研究テーマとして、統合的湖沼流域管理、ノンポイント汚染のモデル解析、環境管理政策、土木工学技術の国際移転等があり、多岐にわたる。日本の留学経験から、「技術自体は他の先進国でも学ぶことができるが、技術を通して留学先の国について学び、自国に伝えることが重要である」という思いに至り、技術の国際移転に関心を持つようになった。

3.講演及び討議内容

1970年代、ケニアのGDPは韓国や東南アジア諸国と同等であったが、現在はこれらの国と差をつけられている。アジアを手本とすることが、ケニアを始めとする途上国の発展の鍵になるとMuhandiki氏は述べた。特に、日本は戦後から著しい経済発展を遂げた経験があり、現在のアフリカは戦後日本の状態に近いことから、Muhandiki氏は日本の経済発展の過程に関心を寄せている。

「昨今、インフラ輸出が騒がれているが、その鍵となるのが、技術の統合化・移転である。インフラ技術とは言え、日本独自の技術があるわけではなく、背景にあるIntegrated Technology Culture(統合技術文化)という哲学に着目することが重要である。」と研究内容をご紹介頂いた。その技術文化の一例として、日本には、災害に対する避難訓練、水環境懇話会のような技術者の横のネットワーク等を挙げて頂いた。

また、「技術移転の技術にはHardware、Software、Management Systemという3要素があり、その中のManagement Systemに各国のオリジナリティが出現し、その要素がSustainabilityに影響を与える。」とご教授頂いた。

加えて、途上国の技術者知識領域を示して頂き、組織の長や作業員等、技術者の立場によって、”Know-Why”と”Know-How”の知識領域が違う点もご指摘頂いた。

その後の討議においても、日本と途上国の技術者知識領域に関して議論が及んだ。聴講者からは、「日本の技術者が”Know-Why”と”Know-How”双方の知識を持ち合わせているのは、ホワイトカラーとブルーカラーの選別が鮮明ではなく、40年間同じ組織で、現場とデスクワークを行き来することにより、培われたのでは」と指摘があった。「その背景には、今徐々に崩れつつあるが、日本の終身雇用制と最低限の給与確保が根底にある」と推察した。

他聴講者は、中長期的な視点に基づいたインフラ施設を早く安く作る戦略について指摘し、Muhandiki氏の研究においても、都市開発プランと照合し、どの国の技術を導入するかを現在検討している。

討議の中で、Muhandiki氏は現在のケニアでは社会構造的に技術者の給与確保が困難であり、かつ技術移転のインセンティブに乏しいことを課題として挙げた。これに対し、莫大な利益を得て引退した資産家や経営者の中で有志を募ることが技術移転の成功につながる可能性があると聴講者から提言があった。

更に、技術移転には下記の利点と課題があると聴講者から指摘があった。

  • メーカーとしては、技術移転に伴い、製品を納入すれば、デファクトスタンダードとなり、市場での競争力が高まる。
  • 技術移転をする際には現地職員・住民が技術を完全に取得するまでフォローすることが必須である。
  • 石油等の天然資源に係る技術移転にはプラント納入や石油利権等のインセンティブがあるが、水分野における技術移転には明確なインセンティブがない。

ご講演頂いたMuhandiki氏、並びに、ご参加頂いた皆様に、この場を借りて、御礼申し上げる。

 
講演の様子   討議の様子
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