公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第47回水環境懇話会 議事録(令和元年7月25日)

蛯江 美孝 氏
国立研究開発法人国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター

 第47回水環境懇話会では、国立研究開発法人国立環境研究所資源循環・廃棄物センターの蛯江美孝氏をお招きし、排水処理分野におけるN2O排出に関する動向についてお話頂いた。その後、質疑応答が行われた。

1.経歴紹介

 2004年筑波大学大学院博士課程を修了し、国立環境研究所に入所された。2011年より資源循環・廃棄物研究センターの主任研究員として、国内外の生活排水・廃棄物の適正処理、資源循環、温暖化に関する技術システム等研究されている。
 温室効果ガス排出量算定方法検討会廃棄物分科会委員(環境省)や災害時の浄化槽被害等対策マニュアル改訂等調査検討会委員長(環境省)、2006年IPCCガイドラインに対する2013年追補の統括執筆責任者等を務められ、様々な委員等活動をされている。

2.講演及び討論内容

 排水処理分野におけるN2O排出に関する動向として、①日本国温室効果ガスインベントリ、②IPCCガイドライン、③排出係数開発事例(浄化槽関係)、④N2O抑制技術等についてご講演頂いた。

①日本国温室効果ガスインベントリ
  • インベントリとは、一定期間内に二酸化炭素(CO2)など地球温暖化の原因となるガス(温室効果ガス)がどの排出源・吸収源からどの程度排出・吸収されたかを示す一覧表のことである。気候変動枠組条約に基づき、我が国では毎年温室効果ガスインベントリを作成し、直近年の温室効果ガス排出・吸収量を推計・公表するとともに、排出・吸収量データ及び関連情報を含む温室効果ガスインベントリを条約事務局に提出している。
  • 日本の温室効果ガス(以下、GHGとする。)の排出量の現状としては、エネルギー分野由来が大きな割合を占めているが、それぞれの分野・ガス種でも削減していくことが重要である。2016年度のN2O排出量(LULUCFを除く)は2,070万トン(CO2換算)であり、GHG総排出量の1.6%である。
  • 排水関係でのN2O排出量は横ばいで推移しており、下水の汚泥焼却(廃棄物分野)における排出量も含めて全体の15%程度である。
  • 処理方式別の排出割合をみると、N2O排出量のほとんどが標準活性汚泥法から排出されているが、これは活動量(処理量)が大きいことと排出係数(GHG排出原単位)が高いことが要因となっている。このため、排出削減対策の影響が大きいのは標準活性汚泥法となる。
  • GHG排出量算定の課題として、必ずしも十分とはいえない実測結果に基づき設定された排出係数が一部存在していること、全てのGHG排出活動を把握・計上できていない可能性があることが挙げられる。このため、GHG削減対策の効果が排出量に反映できるように改良していくことが重要である。
  • ②IPCCガイドライン
  • IPCCとは、Intergovernmental Panel on Climate Change(国際気候変動に関する政府間パネル)の略称である。IPCCガイドラインでは、気候変動枠組条約を批准した各国が国連への報告のためのGHG排出量を推計できるよう算定方法等がまとめられている。
  • 2006年ガイドラインにおける排水処理分野のN2O排出量算定は、引き抜き汚泥中の窒素を除き、排水中の窒素はすべて放流されて、自然界で温室効果ガスとなって排出される想定になっていた。また、そのときの排出係数は農業分野からの転用で設定されていた。
  • 2019年改良版では、処理場と放流先でそれぞれ算定式を作成し、放流先によって異なる排出係数を設定することで、より実際的な方法論を提供している。
  • ③排出係数開発事例(浄化槽関係)
  • 浄化槽や単独処理浄化槽、汲み取り便槽におけるGHG排出係数の正確化を進めるため、我が国において実態調査を実施し、新たな排出係数が開発された。
  • 新たな排出係数を用いて過年度を含めた排出量を再度計算した結果、総排出量は増える結果となったが、トレンドとして実態を反映した形となっている。
  • 今後の課題として、下水道の管路からのGHG排出量算定方法の検討、ディスポーザー普及の動向を踏まえたGHG排出量算定方法の検討等が挙げられた。
  • ④N2O抑制技術
  • 浄化槽のライフサイクルにおけるGHG排出量の内訳は、電力消費が約4割、浄化槽から発生するCH4、N2Oが約4割となっている。浄化槽の技術開発が進んでおり、電力消費量が減少している中で、浄化槽から発生するGHG排出量の削減が重要となっている。
  • 嫌気好気循環運転の実施により、いわゆるA2O法と同じ形となり、CH4排出量は72%削減、N2O排出量は55%削減される。CO2換算で比較した場合、GHG排出量は68%削減可能となる。これにより、生活排水に含まれる窒素の除去のみならず、GHG排出量の削減にも貢献することができる。
  • ⑤その他
  • N2Oモニタリング技術、2019年度推進費新規課題等についてご紹介頂いた。
  •  質疑応答では、インベントリにおける温室効果ガス排出量の算定方法や排出係数の設定方法等に関して活発な議論がなされた。一部として、以下を挙げる。
  • 環境中に放流された排水由来の温室効果ガスの計算が河川の河口までとなっているが、海に入った場合は考慮されているのか。
  • 下水で発生する汚泥を農業分野に使用した場合の区分はどうなるのか、また、汚泥を焼却した場合と農地に使用した場合で、N2O排出量はどちらが少なくなるのか。
  • 【参考サイト】

    ・環境省 温室効果ガスインベントリの概要
     http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/overview.html
    ・国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター 循環・廃棄物のまめ知識
     http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/20110314.htm
    ・国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス
     http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html

    講演の様子
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