公益社団法人 日本水環境学会
水環境懇話会 活動報告

第39回水環境懇話会 議事録(平成28年2月15日)

山口 岳夫 氏
水道技術経営パートナーズ株式会社 代表取締役

「仕事を作ってみた(海外案件編)」
-海外経験ゼロだったところから、海外仕事に関わるようになるために何をしたか、何を見てきたか、今後をどう見ているか-

第39回水環境懇話会では、水道技術経営パートナーズ(株)の山口岳夫氏をお招きし、第30回水環境懇話会の「会社を作ってみた」の続きとして、海外経験ゼロだったところから、海外仕事に関わり、現地での体験や今後の海外展開等をお話頂いた。その後、質疑応答が行われた。

1.経歴紹介

1991年に京都大学を卒業し、日本上下水道設計(株)に入社した。主に水道分野に携わり、2000年から2年間水道技術研究センターに出向、2005年以降は経営業務に携わった。

2010年に水道技術経営パートナーズを設立された。2014年からは国際厚生事業団(JICWELS)の技術参与を兼務されている。

2.講演及び討論内容

講演内容として、①海外仕事とはどんな位置づけなのか、②これまでどんな海外仕事をしてきたか、③海外仕事に関わることで何を得られるか、 ④今後どのような海外展開を目指すか、の4点についてご説明頂いた。

①海外仕事とはどんな位置づけなのか

まず世界において安全な水の確保が非常なテーマであることを説明頂いた。 独立を決めたときには海外経験はほぼゼロに近い状態であったが、海外仕事にニーズが高いため、海外仕事の経験を蓄積してきたとのことである。

②これまでどんな海外仕事をしてきたか

海外仕事の経験談を驚いた話や苦労話を交えてご説明頂いた。

  • 文献抄録委員会(JWRC/日本水道協会):AWWAの週報や興味のある海外論文の抄録作成。
  • 水システム国際化研究会:海外について、援助、ビジネス、各国事情を研究。
  • 海水淡水化施設の基本設計(フィリピン):サイト選定、施設設計、配水管網への供給等を経験。
  • 水ニーズ調査(カンボジア):多様な水システム、公営や民営の違い等を観察。
  • 案件形成調査(バングラデシュ):水以外のエンジニアリングの担当になった苦労話も。
  • 水支援プロポーザル(ミャンマー):水ニーズ調査依頼を受けて新たな水システムを提案。
  • パッケージ型無収水削減策実証(スリランカ):給水施設を対象とした漏水削減のビジネス化企画に参加。
    メーターの導入や料金徴収のシステム化では、
    各国の事情に合わせた方法を意識しなければならないとのこと。
  • 給水施設改善計画準備調査(スーダン):浄水場整備と配水管網整備を軸とした案件の準備調査。
    財務担当で参加。財務諸表の数字が正確ではないなかでいろいろ奮闘。
  • 水道管理行政及び水道事業経営研修:海外からの研修員との2週間の研修。
    各国事情、公衆衛生や水安全計画や水道経営の講義、浄水場見学会等。
  • 水道分野の国際協力検討事業(厚生労働省/JICWELS):
    各国の水道事業経営に影響をあたえる「経営環境」として、
    ガバナンス、人事システム、財政基盤の3つの切り口で分析する方法を開発。
    東南アジア各国の例をあげてご説明頂いたが、各国の事情は非常に異なるものであった。
③海外仕事に関わることで何を得られるか

大きく以下2つの点を挙げられた。

  • 1. わが国で「先進的」とされる水ビジネスに関するさまざまな仕組みのルーツや実際の成果物を見ることができる
    • 水ビジネスの仕組みにおいて海外のやり方が海外でどこまで通用しているのかを観察した。
    • ノウハウや資金がないときにこそ、PFIプロジェクトがミートする。
    • ゼロからスタートした場合、公営は、拠出提供された資本で経営を行う。
      一方で、民営は、料金収入を主な資本として経営を行う。
  • 2. 我が国にはない技術、別の使われ方をしている技術を見ることができる
    • 土地、気候、民族性に合わせて異なった設計思想がある。
    • 日本では高度なシステムが海外ではそうとも限らない。
      (例:セブでは海水淡水化技術が庶民の技術である)
    • 世界には日本に入ってきていない装置やサービスが多くある。
    • 世界には日本の技術とコストでも解決できないニーズが多くある。
④今後どのような海外展開を目指すか

海外で勝負するために技術・製品が備えるべき機能として、水資源・水供給ニーズや社会インフラの制約、経営インフラの制約などを考慮して、 途上国に適応しつつ進出できる技術でなければならないことをご指摘された。

海外進出戦略として、1. 製品の競争力で勝つ(低価格、高効率、高耐久)、2. ビジネス創出力で勝つ(PPP型)、 3. マーケティング力で勝つ(BOP型)を挙げられ、それぞれの特徴をご説明頂いた。

今後は調査研究型業務や海外案件に参加しつつ、海外水道マーケティングに注力されるとのことである。 ここまでに、海外水道マーケティングとして、国により大きく異なる経営環境を分析し、これに適応するノウハウを開発したところとのことである。

最後に海外で仕事をする上で重要なポイントとして、①自分でアポイントを取り、行って帰ってこられること、 ②最低限の英語力として、会議の議事録をとれること、③専門家と認めてもらうために「素の技術力」と「教えてもらえる人脈」を挙げられた。 また現地の文化は、長く滞在している日本人に聞くのが手っ取り早いとのことである。
質疑応答では、技術等の模倣対策、現地での水質分析、水の供給に対する各国の考え、 水ビジネス、体験談(一番つらかったこと、人脈を得るために必要なこと)等、多岐にわたり、活発な議論がされた。
講演の様子
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